医師の独立開業において、医療法人設立は多くのドクターが目指す選択肢となっています。医療法人の設立には、さまざまなメリットとデメリットが存在しますが、事業主としての経営環境を変える重要な要素となるでしょう。

節税効果や社会的信用の向上、事業展開の容易さなどのメリットが期待される一方で、事務処理の煩雑さや社会保険の加入、経営上の制約や責任などのデメリットも存在します。

本記事では、医療法人設立のメリット・デメリットについて詳しく解説します。また、医師の方々が自身の経営計画を立てる際に役立てていただける情報を提供します。

医療法人とは?

医療法人とは、医療機関を運営するために設立された法人のことを指します。具体的には、病院や診療所、介護老人保健施設などを開設し、医師や歯科医師が常勤する組織です。

医療法人は医療法の定めに基づき、各都道府県知事から認可を受ける必要があります。医療法人には、社団法人と財団法人の2種類がありますが、現状では社団法人が大半になります。

医療法人の目的は、医療の提供体制を安定的に確保し、国民の健康維持に寄与することです。医療法人は私人である個人事業主とは異なり、資金の集積がしやすく、医療の高度化を図ることができます。

医療法人化を検討する際には、専門家の助言を受けることが重要で、手続きや節税対策などをサポートしてもらえます。医療法人を設立する最適なタイミングや具体的な手続きについて、専門家に相談することをおすすめします。

参考:厚生労働省「医療法人・医業経営のホームページ」

医療法人設立のメリット

医療法人を設立することには、以下のようなメリットがあります。ただし、デメリットも存在するため、設立を検討する際には注意が必要です。

1)節税効果がある

医療法人を設立することによって、税制上の優遇を受けることができます。具体的には、所得税率と法人税率の税率差による節税効果があります。所得税の最高税率が45%であるのに対して、法人税の最高税率は23.2%です。この税率差を利用することで、税金負担を軽減できます。

また、医療法人の場合は、給与所得控除を受けることができます。医療法人では役員報酬として給与が支払われるため、個人事業と比較して給与所得控除を受けることができます。給与所得控除の最高額は年195万円であり、これによってさらなる節税効果を受けることが可能です。

参考:国税庁「所得税の税率」「法人税の税率」「給与所得控除」

2)事業展開しやすくなる

医療法人として組織を立ち上げることで、個人クリニックではできなかった分院の開設や、他の事業の展開が可能になります。医療法人は、広い地域に医療サービスを提供することや老人介護保険施設の運営、訪問看護などの事業を行うことができます。

医療法人化することで、複数の医院を経営することができ、それぞれの医院の強みを活かし、地域に広く展開できます。

また、介護施設など、法人でないと行うことのできない事業にも取り組むことができます。医療法人設立によって、事業の拡大が可能となります。

3)社会的信用が高くなる

医療法人は法的認可を受けた組織であり信頼性が高くなります。その結果、優秀な人材の採用がしやすくなります。医療業界では、優れた医師や看護師などの専門家の存在が非常に重要です。医療法人の設立によって、これらの専門家を引きつけることができ、組織の専門性を高めることができます。

また、医療法人の設立は融資を受ける際にも有利です。銀行などの金融機関は、法的に認可された医療機関に対して、融資を行いやすくなります。医療法人はその信頼性と安定性から、公的機関からの助成金や補助金などの支援も受けやすくなり、事業の拡大や設備の充実などに役立てることができます。

さらに、社会的な信用が高まることで、患者や地域社会からの信頼も得やすくなります。医療法人は法的に認可された医療機関としての地位を持ち、倫理規定や法的要件を遵守することが求められます。これにより、組織の継続性を確保できます。

4)退職金が受け取れる

医療法人では、院長(理事長)や役員(理事)の退任時に退職金を支給できます。この退職金は法人の経費として計上されるため、節税効果も享受できます。

退職金は、長年にわたって医療機関に貢献した院長などへの感謝の気持ちや、経済的な補償として支給されます。また、退職金制度は、院長や従業員などの安心感やモチベーションの向上にもつながる重要な要素です。

5)事業承継や相続対策がしやすい

医療法人を設立することにより、将来的な事業の継続性を確保できます。医療法人は法人として独立した存在であり、個人の死亡や退職によって事業が停滞する心配がありません。そのため、子供への事業承継などもスムーズに進めることができます。

医療法人は、個人の財産とは別の法人として運営されるため、法人の財産は相続財産から除外されます。そのため、相続税の負担も軽減できます。

また、医療法人の財産は役員報酬によってコントロールでき、役員報酬を多くすることで個人の財産が増え、逆に少なくすることで法人の財産が増えることになります。これにより、事業承継や相続の際に財産の移動をスムーズに行うことができます。

医療法人設立のデメリット

以下が医療法人設立のデメリットの一例です。医療法人を設立する際には、これらのデメリットを考慮し、経営上のリスクや負担を理解した上で判断する必要があります。

1)事務手続きが複雑になる

医療法人を設立する場合、法人としての手続きや規則に従う必要があります。これには、役員の選任や役員会の開催、会計帳簿の管理なども含まれます。これらの手続きは、個人事業主と比べて複雑さを伴い、設立後の事務手続きには時間や労力を要することになります。

2)社会保険加入など費用が増加する

医療法人を設立すると、社会保険への加入が必須となります。社会保険には健康保険や厚生年金・雇用保険などがあり、これらの保険料は法人が半分負担しますので、従業員数が多い場合や給与水準が高い場合は、社会保険費がかなりの負担となることもあります。

また、医療法人を設立すると、事務処理や経理などの業務も煩雑になります。法人としての運営や報告書の提出など、さまざまな手続きが必要となり、これらの業務には時間と手間がかかり、経営コストも上昇します。

3)経営上の制約や責任が発生する

医療法人を設立すると、経営上の制約や責任が発生します。法人としての責任を果たすためには、経営の透明性や財務管理の徹底が求められます。

また、医療法人は医療業界における法的な規制や監督の対象となるため、法令遵守や厳格な管理体制の確立が必要です。これらの制約や責任は、経営の自由度や柔軟性に影響を与えることがあります。

この記事の監修者 
特定行政書士 宗方 健宏

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