不正請求を対岸の火事と思っている児童福祉・障害福祉事業所の関係者はいませんか。福祉サービスの不正請求は法令の理解不足でもおきます。不正請求をしてしまうと請求額の返還や事業の指定取り消しもあり、事業所運営だけではなく法人運営も立ち行かなくなってしまいます。安定した事業所・法人運営を行っていくためにも、不正請求について深く理解することが重要です。本記事では、不正請求時の行政の対応や事例、意図しない不正請求を無くす方法などについて解説します。

不正請求が発覚した場合の行政の対応とは

もし、児童福祉・障害福祉の事業所で不正請求が発覚すると、行政はどのような対応をするのでしょうか。福祉サービスにおける行政処分には、「指定の取り消し」「指定の効力の停止」「勧告」「命令」の四つがあります。この章ではこの四つの行政処分について解説します。

指定の取り消し

「指定の取り消し」はダメージが一つの事業所にとどまらず、法人全体に波及する行政処分です。児童福祉法や障害者総合支援法に基づく福祉サービスの事業を運営するためには、都道府県からの指定が必要です。行政処分の「指定取り消し」とは、この指定が取り消されることで、すなわち事業の運営ができなくなることを意味します。

「指定の取り消し」は一つの事業所に対して行われるため、複数の事業所を運営している法人では、ダメージが法人全体に波及しないように感じるかもしれません。しかし、ネガティブな情報が瞬く間に広がる現代において、「不正をした法人」というレッテルが貼られてしまうことが容易に想像できます。

「指定の取り消し」は、法人運営を難しくさせる重い行政処分と言えます。

指定の効力の停止

「指定の効力の停止」は期間が定められていますが、終了後の影響も大きい行政処分です。「指定の効力の停止」は以下のとおり「全部」と「一部」の二つに分けられます。

  • 指定の効力の全部停止

内容:一定期間にわたって指定が取り消される

行政処分の事例:「6か月間の指定の効力の全部停止」など

  • 指定の効力の一部停止

内容:一定期間にわたって事業活動の一部が停止される

行政処分の事例:「12か月間の新規利用者の受け入れ停止」など

「全部」と「一部」も期間が定められているため、期間が終了したら事業活動を再開できることが「指定の取り消し」との大きな違いです。しかし、負のレッテルは簡単にははがせません。利用者の退所や新規利用者の獲得が難しくなることは十分に想像できます。

勧告・命令

「勧告・命令」は不正請求以外の違反で行われることがある行政処分です。「勧告」と「命令」の違いは以下のとおりです。

  • 勧告:期限を定めて事業所に改善を促す
  • 命令:「勧告」に事業所が対応しなかった場合に行われる。期限を定めて改善を指示される

なお、「命令」の行政処分の事例としては以下があります。

〇年△月×日までに『個別支援計画の作成に係る手続きを適正化するように』と勧告に対応しなかった。□年〇月△日までに改善しない場合は、指定の取り消しや指定の全部、一部の効力の停止を検討する

「勧告・命令」は「指定の取り消し」のような重い行政処分ではありません。しかし、人員基準の違反といった設備・運営基準の違反の場合に行われる行政処分で、不正請求では行われません。不正請求が発覚したら、いきなり「指定の効力の停止」や「指定の取り消し」が行われます。「不正請求の発覚=事業所・法人運営に対して即アウトの判定」と、肝に銘じることが重要なのです。

実際にあった不正請求の事例解説

ここでは不正請求が発覚した事例や処分内容について解説します。

事例1:児童発達支援管理責任者・保育士を未配置で指定・請求

長野県の株式会社が運営する放課後等デイサービスが、虚偽の申請で障害児通所支援事業者の指定を受け、不正請求を行いました。不正請求の内容や不正請求額は以下のとおりです。

  • 不正請求内容:児童発達支援管理責任者・保育士を常勤で配置せず指定を受け障害児通所給付費を請求した。
  • 不正請求額:1億7,600万円

事例2:児童発達支援管理責任者・保育士・看護師を未配置で障害児通所給付費を請求

大阪府の株式会社が運営する3つの児童発達支援事業所・放課後等デイサービスが人員基準違反、運営基準違反などした上で不正請求を行いました。不正請求の内容や不正請求額は以下のとおりです。

  • 不正請求内容:児童発達支援管理責任者・保育士・看護師を配置せず運営し障害児通所給付費を請求した。
  • 不正請求額:約7,850万円

事例3:福祉サービスを提供していないのに障害児通所給付費を請求

神奈川県のNPOが運営する放課後等デイサービス事業所二か所が、不正請求や人格尊重義務違反を行いました。不正請求の内容や不正請求額は以下のとおりです。

  • 不正請求内容:複数の児童にサービスを提供していないのに、実績記録を作成して障害児通所給付費を請求した。
  • 不正請求額:約254万円

事例4:減算をせずに報酬を請求

埼玉県の障害福祉サービスの多機能型事業所(生活介護事業・就労継続支援B型)が、不正請求をはじめとした複数の違反を行いました。不正請求の内容や不正請求額は以下のとおりです。

  • 不正請求内容:減算をせず不当な加算で介護給付費・訓練等給付費を請求した
  • 不正請求額:生活介護事業約648万円、就労継続支援B型約462万円

事例5:サービス管理責任者欠如減算をせずに請求

東京都の就労定着支援事業所が不正請求を行いました。不正請求の内容や不正請求額は以下のとおりです。

  • 不正請求内容:サービス管理責任者欠如減算をせずに訓練等給付費を請求した
  • 不正請求額:約520万円

なぜ不正請求が発覚するのか

ここでは不正請求の発覚経路について解説します。実地指導で不正請求が確認された場合に、実地指導から監査へ変更して確認が行われますが、行政への情報提供によっても監査が行われることがあります。

実地指導から監査へ

実地指導で不正請求が確認された場合、実地指導から監査へ変更して不正請求の確認が行われます。実地指導は3年に1度の頻度で実施され、名称のとおり事業所がある場所(実地)で指導が行われます。

前述のとおり行政がいきなり監査をすることはなく、違反が確認された場合に実地指導から監査へ変更という流れで監査は行われます。何も違反がない場合は当然監査は行われません。不正請求が確認された場合に、実地指導から監査に変更して確認が行われ、不正請求が発覚するのです。

情報提供から監査へ

実地指導から監査への流れを解説しましたが、実地指導を行わずいきなり監査が行われる場合もあります。いきなり監査が行われるのは、職員や利用者などからの情報提供によってです。

情報提供から監査がいきなり行われることは、事業所側の落ち度もありますが、監査対策がまったくできないことを意味します。準備する時間があれば再度確認して誤りに気づけた請求も、監査によって不正請求として指摘されるかもしれません。不正請求と指摘されないためには、日々の正しい請求業務が重要なのです。

請求データの分析から監査へ

行政庁が事業所の請求データを分析し特異傾向を示す場合、情報提供による監査と同様にいきなり監査が行われます。

行政庁が事業所の毎月の請求データを確認し、通常では考えられない請求内容が確認された場合、監査によって不正請求として指摘されるかもしれません。不正請求と指摘されないためには、日々の正しい請求業務が重要なのです。

コンサルティング会社を積極的に活用し不正請求を防ぐ!

最後は不正請求を防ぐ方法を解説します。監査で不正請求と指摘されないようにするためには、コンサルティング会社の活用が考えられます。不正請求と指摘されない方法は、正しく請求業務を行う方法以外ありません。

しかし、サービスの根拠法である児童福祉法や障害者総合支援法の解釈は難しく、担当になった職員が一朝一夕で理解できるものではありません。事業所としては専門性のある人材を採用したいのが本音ですが、難しいのが現実です。内部の人材を育てようにも、人材的にも時間的にも余裕がありません。

このような課題を一気に解決する方法として、福祉専門のコンサルティング会社の活用があります。費用は発生しますが、不正請求というリスクを一気に解決してくれます。定期的なコンサルティングだけではなく報酬請求業務のアウトソーシングも可能です。業務の効率化にもなるでしょう。

意図しない不正請求を防ぎ、安定した事業所運営を!

児童福祉・障害福祉の事業所が不正請求をすると「指定の取り消し」や「指定の効力の停止」の行政処分が下されます。事業所だけではなく法人の運営に大きなダメージとなるので、不正請求と判断されないように日々正しい請求業務を行うことが重要です。しかし、児童福祉法や障害者総合支援法の解釈は難しく、正しい請求業務自体が難しいことと言えるでしょう。正しい請求業務には福祉専門のコンサルティング会社の活用が考えられます。正しい請求業務だけではなく業務効率化も可能です。

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この記事の監修者 
特定行政書士 宗方 健宏

行政書士国際福祉事務所は、障害福祉医療・外国人ビザの許認可手続きに特化しております。障害福祉医療業務・国際業務に特化しておりますので、様々な事例に対応してきました。医療法人設立は、日々の診療で多忙な医師に変わり、設立から運営までサポートしております。障害福祉事業所の立ち上げ・運営コンサルティングは、毎月の国保連請求代行業務(株式会社IWパートナーズ)や行政による実地指導の立会いまでサポートしております。国際業務は、障害福祉事業所・医療法人・企業で外国人を雇用したい法人様をサポートしております。