「医療法人の設立は手続きに手間がかかる」

「もっと自由に診療所を運営したい」

こういった思いを持つ医師の方々にとって、近年注目されている選択肢が「一般社団法人」での診療所開設です。一般社団法人とは、非営利目的で設立される法人形態の1つであり、医療法人と比べて設立が容易で、運営の柔軟性が高い点が魅力です。しかし、その一方で注意すべきポイントも存在します。本記事では、一般社団法人での診療所開設手続きの流れや、メリット・デメリットについて、分かりやすく解説します。診療所の法人化を検討中の方の参考になれば幸いです。

一般社団法人とは?

一般社団法人とは、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」に基づいて設立される非営利法人です。2008年(平成20年)施行の公益法人制度改革により、従来の社団法人に代わって設けられた、比較的新しいタイプの法人形態になります。

非営利というと「利益を出してはいけない」「給与や報酬を受け取ってはいけない」と思われることがありますが、「事業利益の配当ができない」だけで、サービスに見合った利益を受け取ることは何ら問題ありません。

一般社団法人の例としては、「スポーツ協会や業界団体・医療法人・教育機関」などで設立されることが多くなります。2007年(平成19年)には、厚生労働省から「医療法人以外の法人による医療機関の開設者の非営利性の確認について」の通知が出されており、制度改正の当初から注目されていたことが分かります。

一般社団法人と医療法人の違い

一般社団法人と医療法人の最大の違いは、その設立難易度と運営の柔軟性にあります。医療法人は設立や運営に関する厳格なルールが定められています。一方、一般社団法人は、医療サービス提供の枠組みの中で、より幅広い活動が可能です。また、設立や運営に関する規制が比較的緩やかであるため、医師が自らのビジョンに基づいて診療所を運営しやすい環境が整っています。

一般社団法人と医療法人の主な違いは、以下のようになります。

一般社団法人医療法人
法人設立短期間で設立可能
(設立登記のみ)
非常に時間がかかる
(都道府県の認可+設立登記)
診療所開設保健所による開設許可
申請時期随時年2~3回の受付期間のみ
申請~開設1~2ヶ月程度
※ケースによって異なる
6ヶ月以上
拠出金なしあり
※都道府県により異なる(運転資金の2ヶ月分等)
理事長要件なし医師または歯科医師
業務制限緩やか厳しい

一般社団法人での診療所開設のメリット・デメリット

一般社団法人での診療所開設には、メリットとデメリットがあります。両者をしっかりと把握したうえで、検討するとよいでしょう。

1)一般社団法人での診療所開設のメリット

一般社団法人での診療所開設のメリットは、主に以下のようになります。

①設立が容易であること

一般社団法人の設立は、医療法人と比べて、手続きが簡単で、時間も短く済みます。医療法人の設立には、都道府県知事の認可が必要ですが、一般社団法人の設立には、法務局への登記のみで済みます。

②運営が柔軟であること

医療法人の運営には、医療法などの法令による制限がありますが、一般社団法人であれば運営に関する規則が比較的緩やかであるため、診療方針やサービスの提供方法において柔軟に対応することが可能です。

③継承が容易であること

医療法人の理事長の後継者は医師でなければなりませんが、一般社団法人の後継者は医師でなくても構いません。このように、一般社団法人の継承は、医療法人の継承よりも、容易に行うことができます。

2)一般社団法人での診療所開設のデメリット

一般社団法人での診療所開設のデメリットは、主に以下のようになります。

①保健所での開設許可に時間がかかることがある

診療所の開設許可申請にあたっては、地域の前例が少ないケースでは、許可取得までに時間がかかる可能性があります。また、保健所の基準や要件によっては、一般社団法人での診療所開設が認められない場合もあります。このようなデメリットを払拭するためには、士業やコンサルタントなど専門家への相談を検討するとよいでしょう。

②税制上の優遇措置が受けられないことがある

役員の親族割合が1/3超になった場合、営利法人扱いになり、税制上の各種の優遇措置が適用されなくなります。医療法人にも役員の親族割合の制限がありますので、一般社団法人だけのデメリットとはいえない面もありますが、事前に要件を確認してデメリットを回避しましょう。

一般社団法人での診療所開設手続きの流れ

一般社団法人で診療所開設するには、まず、一般社団法人を設立するために法務局への登記申請などの手続きを行い、次に診療所を開設するために、保健所への開設許可申請などの手続きを行います。

社員の決定
最低でも2名以上の社員(設立時社員)を決めます。 ※社員:株式会社でいう株主のような立場の人
定款の作成
一般社団法人の目的や事業内容、社員の権利や義務などを定めた文書を作成します。
法務局での登記申請
設立総会の議事録や定款など必要書類を添付して、法務局に一般社団法人として登記申請します。
保健所への事前相談
診療所を開設する際には、保健所に事前相談し、診療所の場所や設備に関する規制や基準を確認します。しっかりと相談することによって、開設に必要な条件や準備すべき内容を把握できます。
施設完成・開設
事前相談の結果に基づいて、診療所の施設を建設・改修します。施設が完成したら、診療所の名称や人員、診療科目などを決めて、開設の準備を行います。
保健所への開設許可申請
診療所の開設に関する情報を保健所に申請します。許可申請には、医師の免許証や診療所の写真など、多くの書類が必要です。
保健所の立ち入り検査(実査)
許可申請後、保健所が診療所の施設や設備を実際に立ち入り検査します。検査によって、診療所の要件や安全性を確認されます。

一般社団法人での診療所開設は今後増加すると予想されます

一般社団法人での診療所開設は、その設立と運営の柔軟性、手続きの簡単・スピーディーさから、今後も増加すると予想されます。

特に、独自の医療サービスを提供したい場合や、地域社会に特化した医療ニーズなどに、応えたいと考える場合などに選ばれる傾向にあります。また、社会の高齢化や健康意識の高まりを背景に、より質の高い医療サービスへの需要が増加していることも、この流れを後押ししています。

この記事の監修者 
特定行政書士 宗方 健宏

行政書士国際福祉事務所は、障害福祉医療・外国人ビザの許認可手続きに特化しております。障害福祉医療業務・国際業務に特化しておりますので、様々な事例に対応してきました。医療法人設立は、日々の診療で多忙な医師に変わり、設立から運営までサポートしております。障害福祉事業所の立ち上げ・運営コンサルティングは、毎月の国保連請求代行業務(株式会社IWパートナーズ)や行政による実地指導の立会いまでサポートしております。国際業務は、障害福祉事業所・医療法人・企業で外国人を雇用したい法人様をサポートしております。