海外に住む外国人が、日本の医療機関で治療や検査、人間ドックなどを受けることを目的として来日する場合、「医療滞在ビザ」を利用することがあります。
医療滞在ビザを申請する際には、外国人患者本人が医療機関を予約するだけではなく、登録された身元保証機関による身元保証を受けることが必要です。
この身元保証機関として外国人患者の受入れを支援するのが、医療コーディネーターなどの「医療渡航支援企業」です。
近年は、日本の医療技術や人間ドックなどを目的として来日する外国人への関心が高まり、いわゆる「医療ツーリズム」「医療インバウンド」への参入を検討する企業も増えています。
一方、医療滞在ビザに係る身元保証機関として登録するためには、外国人患者の受入実績、医療機関との提携、外国語対応、財務状況、緊急時の対応体制など、複数の登録要件を満たす必要があります。
さらに、登録基準上の標準処理期間は40日程度とされていますが、現在の実務では、申請から登録まで1年以上を要する状況もみられます。
当事務所でも、医療滞在ビザに係る身元保証機関への登録についてご相談をいただく機会が増えています。
本記事では、医療滞在ビザに係る身元保証機関の役割、経済産業省への登録要件、医療ツーリズムの需要、申請時の注意点、現在の審査期間について解説します。
- 1. 医療滞在ビザとは
- 2. 医療滞在ビザに係る身元保証機関とは
- 3. 医療渡航支援企業はどのような業務を行う?
- 4. 旅行会社の場合は登録先が異なる
- 5. 身元保証機関として登録するための主な要件
- 6. 外国人患者の受入実績が必要
- 7. 国内医療機関との提携が必要
- 8. 専管部署または専任者を置く
- 9. 外国語に対応できる体制を整える
- 10. 純資産500万円以上が必要
- 11. 全国で緊急事態に対応できる体制が必要
- 12. 登録申請では多くの資料を提出する
- 13. 医療ツーリズムは今後も需要が見込まれる
- 14. 審査期間はどのくらい?
- 15. 早い段階から登録準備を始めることが重要
- 16. 登録後も身元保証業務を行う必要がある
- 17. 専門家へ早めに相談するメリット
- 18. 当事務所のサポート
医療滞在ビザとは
医療滞在ビザは、日本の医療機関で治療や検査などを受けることを目的として訪日する外国人患者と、その必要に応じて同行する同伴者に発給される査証です。
対象となる医療行為は、手術や治療だけに限定されているわけではなく、人間ドック、健康診断、検診、歯科治療など幅広い医療サービスが対象となります。
滞在期間は患者の病状や治療予定などを踏まえて決定され、長期間の治療が必要な場合には、一定の条件のもとで長期滞在を前提とした申請を行うこともあります。
医療滞在ビザを申請する際には、受診予定の医療機関だけでなく、登録された身元保証機関による身元保証が必要になることが、この制度の大きな特徴です。
医療滞在ビザに係る身元保証機関とは
医療滞在ビザに係る身元保証機関とは、日本で医療サービスを受ける外国人患者について、医療機関への受入れ調整や滞在中の支援などを行い、医療滞在ビザの申請に必要となる身元保証を行う機関です。
経済産業省では、一定の要件を満たした法人について、医療滞在ビザに係る身元保証を行う医療コーディネーターとして登録する制度を設けています。
外国人患者から依頼を受けた一般の法人が、自由に医療滞在ビザ用の身元保証書を発行できるわけではありません。
医療滞在ビザに係る身元保証業務を事業として行うためには、所定の登録要件を満たし、身元保証機関として登録される必要があります。
医療渡航支援企業はどのような業務を行う?
医療渡航支援企業は、単に査証申請のための身元保証書を発行するだけではなく、外国人患者が日本の医療機関を受診するために必要となる一連の調整を行います。
例えば、外国人患者から病状や希望する治療内容などを確認し、対応可能な医療機関との調整を行うほか、診療日程、医療通訳、移動、滞在中のサポートなどを行うことがあります。
事業内容によっては、患者の来日前から帰国後まで、
外国人患者からの相談受付
→ 医療機関との調整
→ 診療内容・費用等の確認
→ 医療滞在ビザに必要な書類の準備
→ 身元保証
→ 来日後の受診支援
→ 医療通訳等の手配
→ 緊急時の対応
→ 帰国までの支援
という形で外国人患者をサポートすることになります。
そのため、身元保証機関には、単なる事務処理能力ではなく、医療機関との連携、外国語対応、患者対応、緊急時の対応などを継続して行うことのできる体制が求められています。
旅行会社の場合は登録先が異なる
医療滞在ビザに係る身元保証機関の登録を検討する場合には、最初に自社がどの登録制度の対象となるのかを確認する必要があります。
旅行業法に基づく旅行業者として登録されている法人については、経済産業省ではなく、観光庁側の制度による審査・登録となります。
一方、旅行業者ではない医療コーディネーターなどが身元保証機関として登録する場合には、経済産業省の登録制度を利用することになります。
そのため、申請準備を始める前に、会社の現在の事業内容や旅行業登録の有無を確認しておくことが重要です。
身元保証機関として登録するための主な要件
経済産業省の医療滞在ビザに係る身元保証機関として登録するためには、主に次のような要件を満たす必要があります。
| 主な要件 | 内容 |
|---|---|
| 外国人患者の受入実績 | 原則として申請月を含む過去2年間で合計10名以上、かつ半年ごとに1名以上 |
| 医療機関との関係 | 国内医療機関との提携またはこれと同等の機能 |
| 社内体制 | 専管部署または専任者を配置 |
| 外国語対応 | 必要な外国語に対応できる要員を配置できる体制 |
| 財務要件 | 資産総額から負債総額を控除した額が500万円以上 |
| 緊急対応 | 日本国内のいかなる場所でも緊急事態に迅速に対応できる体制 |
| 国内拠点 | 外国人患者等からの問い合わせに対応するための国内事業所 |
| 関係省庁との連携 | 必要な連絡・調整を適切に行うこと |
| 役員関係 | 登録基準に定める欠格事由に該当しないこと |
単に会社を設立し、外国語を話せる従業員を配置すれば登録できるという制度ではありません。
外国人患者を安全かつ適切に日本の医療機関へ受け入れることのできる事業者であることを、さまざまな資料によって説明する必要があります。
外国人患者の受入実績が必要
登録申請で特に重要となるのが、外国人患者の受入実績です。
原則として、登録申請を行う月を含む過去2年間に、海外在住の外国人患者・受診者について合計10名以上、かつ半年ごとに1名以上、国内医療機関への受入業務を行った実績が必要です。
したがって、これから初めて医療インバウンド事業を開始する会社が、何の実績もない状態からすぐに身元保証機関として登録できるとは限りません。
どの業務が「受入実績」として認められるのか、実績をどのような資料によって証明するのかについても、申請前に整理しておく必要があります。
なお、一定の認証を受けた医療機関が申請主体となる場合には、実績要件について別の取扱いがあります。
国内医療機関との提携が必要
身元保証機関は、外国人患者を実際に日本の医療機関へつなぐ役割を担うため、国内医療機関との提携関係を有していることが求められます。
登録申請では、外国人患者等の国内医療機関への受入業務について、医療機関との提携を示す契約書などを提出します。
単に「今後医療機関を探す予定」というだけではなく、外国人患者から相談があった場合に、実際に受入れを調整できる体制があることを示す必要があります。
専管部署または専任者を置く
外国人患者や同伴者の受入業務を取り扱うため、社内に専管部署を設けるか、専任者を配置する必要があります。
登録申請では、外国人患者の受入業務を担当する部門の組織図や従事者に関する資料を提出し、会社として継続的に業務を行う体制が整っていることを説明します。
形式的に担当者を一人記載するのではなく、実際に外国人患者からの相談や医療機関との調整に対応できる体制を構築することが重要です。
外国語に対応できる体制を整える
外国人患者の受入れでは、患者本人や同伴者とのコミュニケーションが不可欠です。
そのため、受入業務に必要となる言語について、対応可能な人員を配置できる体制を整えていることが登録要件となっています。
登録申請では、対応可能な外国語や対応人数などについても説明する必要があります。
外国語対応については、単に翻訳できるだけではなく、医療機関との調整、患者への案内、緊急時の連絡など、実際の受入業務に対応できる体制として考える必要があります。
純資産500万円以上が必要
身元保証機関には、事業を継続して行うための一定の経済的基盤も求められています。
具体的には、最近の事業年度の貸借対照表において、資産総額から負債総額を控除した額が500万円以上であることが必要です。
一般的には純資産または正味財産の金額を確認することになります。
資本金が500万円以上あれば必ず要件を満たすという意味ではありませんので、申請前には最新の決算書を確認する必要があります。
全国で緊急事態に対応できる体制が必要
身元保証機関には、日本国内のいかなる場所で外国人患者に関する緊急事態が発生した場合でも、迅速に対応できる体制を確保することが求められています。
外国人患者が来日した後に、急な病状の変化、医療機関とのトラブル、移動中の事故などが発生する可能性もあります。
そのため登録申請では、緊急時の支援体制だけでなく、事故が発生した場合の対応について定めた事故処理マニュアルなども準備します。
単に「何かあれば対応します」という説明ではなく、誰が、どのように連絡を受け、どの関係機関と連携し、どのような手順で対応するのかを具体的に整理することが重要です。
登録申請では多くの資料を提出する
医療滞在ビザに係る身元保証機関の登録申請では、登録申請書だけを提出するわけではありません。
例えば、
外国人患者の過去2年間の受入実績
医療機関との提携を証明する契約書等
外国人患者受入部門の組織図
担当者・対応可能言語に関する資料
貸借対照表・損益計算書
事故処理マニュアル
緊急時支援体制に関する資料
定款
登記事項証明書
事業計画
など、多数の資料を準備する必要があります。
特に重要なのは、登録申請書、組織体制、提携契約、実績、緊急対応体制、事業計画などの内容が相互に矛盾していないことです。
申請書だけを先に作成し、後から他の資料を合わせようとすると内容に不整合が生じることがありますので、登録要件全体を確認したうえで申請書類を組み立てることが重要です。
医療ツーリズムは今後も需要が見込まれる
医療滞在ビザに係る身元保証機関への登録を検討する法人にとって、「実際に医療ツーリズムの需要があるのか」は重要なポイントです。
近年、日本の医療技術や検査・治療を目的として来日する外国人がみられ、人間ドックなどの医療サービスと宿泊・観光を組み合わせた「医療ツーリズム」「医療インバウンド」の取組も進んでいます。
2026年1月の報道では、大阪駅に直結する施設に設けられた外国人の利用も想定した人間ドック施設について、開設から約1年間で約570人が受診し、その5割強を中国人が占めていたことが紹介されています。
同施設は自由診療で、受診料の中心価格帯は50万円から80万円程度とされ、100万円を超えるプランを希望する外国人もいるなど、日本の人間ドックや高度な検査サービスに対する一定の需要がうかがえます。
また、医療機関で検査を受けるだけではなく、ホテルへの宿泊や観光などと組み合わせた医療ツアーの取組も進められています。
医療ツーリズムでは、医療機関だけで外国人患者の来日から帰国までのすべてに対応することは難しく、
外国人患者と医療機関との調整
医療機関の予約
医療通訳
治療・検査日程の調整
滞在中の患者サポート
医療滞在ビザの身元保証
などを担う医療渡航支援企業にも役割があります。
経済産業省も、2026年度に医療インバウンドのプラットフォーム構築を含む事業を実施しており、日本の医療・ヘルスケアサービスの国際展開を進めています。
もちろん、身元保証機関として登録すれば必ず外国人患者を獲得できるというものではなく、医療機関とのネットワーク、外国語対応、海外からの集客、患者へのサポート体制などを構築する必要があります。
しかし、日本の医療を目的として来日する外国人の需要が実際にみられる現在、医療ツーリズムや医療コーディネート事業への参入は、新たな事業として検討する価値のある分野の一つと考えられます。
審査期間はどのくらい?
身元保証機関の登録基準では、登録申請に必要な書類が経済産業省に到達してから、申請を処理するまでの標準処理期間は40日程度とされています。
ただし、この40日には、申請書類を補正するために要する期間、審査に必要なデータや追加資料を準備する期間、土曜日・日曜日・祝日などは含まれていません。
したがって、「申請すれば40日程度で登録され、すぐに身元保証機関として業務を開始できる」という意味ではありません。
現在、当事務所でも医療滞在ビザに係る身元保証機関の登録について多くのご相談をいただいておりますが、実務上は、正式に申請してから登録まで1年以上を要する状況となっています。
医療ツーリズムへの関心が高まり、身元保証機関への登録を希望する事業者も増えているなかで、登録基準上の「40日程度」という標準処理期間と、実際に登録されるまでの期間には大きな差があります。
そのため、「半年後から医療ツーリズム事業を始めたいので、これから登録申請をしよう」と考えても、予定した事業開始時期までに登録が完了しない可能性があります。
医療滞在ビザに係る身元保証業務を新規事業として検討している法人は、1年以上の期間を要する可能性も考慮し、できるだけ早い段階から登録準備を始めることが重要です。
早い段階から登録準備を始めることが重要
身元保証機関への登録を検討している場合には、「事業を開始する時期が決まってから申請する」のではなく、早い段階で登録要件を確認することをおすすめします。
特に受入実績については、原則として過去2年間の実績が必要となるため、申請直前になって準備できるものではありません。
医療機関との提携、社内の担当部署、外国語対応、緊急時の支援体制、財務要件などについても、それぞれ申請前に整備する必要があります。
また、事故処理マニュアルや事業計画などは、会社の実際の受入体制に合わせて作成する必要があり、単なるひな型を提出すればよいというものではありません。
医療ツーリズムには今後も事業機会が期待できますが、身元保証機関として業務を開始できる状態になるまでには相当の準備期間が必要です。
参入を検討している場合には、できるだけ早く登録の可能性を確認し、必要な体制整備を進めることが重要です。
登録後も身元保証業務を行う必要がある
身元保証機関として登録された後も、そのまま無期限に登録が維持されるわけではありません。
登録後1年間、または最後に医療滞在ビザに係る身元保証を行った日から1年間、身元保証業務を行わなかった場合には、原則として登録が失効する取扱いがあります。
したがって、身元保証機関への登録は、単に将来使う可能性があるから取得しておくという制度ではなく、実際に外国人患者を継続して受け入れ、身元保証業務を行う事業者を前提とした制度です。
登録後についても、医療機関との関係、外国語対応、患者受入れ体制などを継続して維持する必要があります。
専門家へ早めに相談するメリット
医療滞在ビザに係る身元保証機関の登録申請では、外国人患者の受入実績、医療機関との提携、組織体制、外国語対応、財務状況、緊急時支援体制、事故対応、事業計画など、多岐にわたる内容を確認する必要があります。
そのため、申請書を作成する段階になって初めて専門家へ相談するよりも、登録を検討し始めた段階で要件を確認する方が有効です。
例えば、受入実績が不足している場合には、申請書の作成方法を工夫して解決できる問題ではありません。必要な実績をどのように積み上げるのかを含めて、事業計画そのものを考える必要があります。
また、現在は登録まで1年以上を要するケースがあるため、申請後に大幅な補正や追加資料への対応が発生すると、事業開始がさらに遅れる可能性があります。
そのため、できるだけ早い段階で登録要件を確認し、専門家とともに必要書類や社内体制を整理したうえで申請することをおすすめします。
当事務所のサポート
当事務所では、医療滞在ビザに係る身元保証機関として経済産業省への登録を希望する法人について、登録申請のサポートを行っております。
現在も身元保証機関への登録を希望する法人からのご相談を多くいただいており、実際の登録申請にも対応しています。
登録申請では、まず現在の会社の状況を確認し、
外国人患者の受入実績
医療機関との提携状況
社内の担当部署・担当者
外国語対応体制
財務状況
国内の事業所
全国での緊急時支援体制
事故処理体制
今後の事業計画
などが登録要件を満たしているかを確認します。
そのうえで、登録申請書だけでなく、実績資料、組織図、医療機関との提携資料、事故処理マニュアル、緊急時支援体制、事業計画などについて、申請内容全体に整合性が取れるよう準備を進めます。
医療ツーリズムへの需要が高まるなか、今後、外国人患者の受入れ支援を新たな事業として検討する法人にとって、身元保証機関への登録は重要な選択肢の一つです。
一方、現在は申請から登録まで1年以上を要するケースもあるため、事業を開始したい時期から逆算し、できるだけ早く準備を始めることが重要です。
「医療ツーリズム事業へ参入したい」「身元保証機関として登録できるか確認したい」「受入実績が登録要件を満たしているか確認したい」「経済産業省への登録申請を専門家に依頼したい」といったご相談について、登録前の要件確認から申請までサポートいたします。
