外国人の受入れと日本社会での秩序ある共生を進める中で、政府は、在留資格「永住者」の審査の在り方について見直しを検討しています。

永住許可は、日本で長期的かつ安定的に生活するための重要な手続きです。一方で、永住者は、活動内容や在留期間の制限がなく、日本で生涯にわたり生活することも想定される在留資格であるため、今後はこれまで以上に慎重な審査が行われる可能性があります。

今回のガイドライン改定案では、独立生計要件や国益要件を中心に、年収、将来の年金受給見込額、日本語能力、日本の制度やルールの理解、子どもの就学状況などが、審査上の重要な要素として示されています。

現時点では、あくまで「ガイドライン改定案」の段階であり、正式なガイドラインとして確定したものではありません。そのため、実際に永住許可申請を行う際には、出入国在留管理庁の最新情報を確認する必要があります。

本記事では、永住許可のガイドライン改定案のポイント、年収・年金・日本語能力・子どもの就学などの見直し内容、今後の永住許可申請で注意すべき点について解説します。

永住許可のガイドライン改定案とは

永住許可のガイドライン改定案とは、永住許可の審査において考慮すべき要素について、現在の運用を見直し、より明確化・厳格化する方向で整理されたものです。

資料では、「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」の施策番号36として、永住許可基準について、永住許可を行う趣旨を踏まえた独立生計要件や国益要件の見直し、日本語や日本の制度・ルール等を学習するプログラムの受講を条件とすることを含めて検討するとされています。

つまり、今回の改定案は、単に年収額だけを見直すものではありません。

永住者として日本で安定して生活できるか、日本社会の制度やルールを理解しているか、日本国の利益に合する在留といえるかなど、より総合的に審査する方向性が示されています。

永住許可の基本要件

永住許可の法律上の要件は、入管法第22条第2項に定められています。

主な要件は、次の3つです。

  1. 素行が善良であることです。
  2. 独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有することです。
  3. その者の永住が日本国の利益に合すると認められることです。

ガイドラインは、これらの法律上の要件について、審査に当たって考慮すべき要素の基本的な考え方を示すものです。そのため、ガイドラインが見直されると、永住許可申請の実務にも大きな影響が出る可能性があります。

永住者の位置付けが明確化される方向

今回の改定案では、在留資格「永住者」の位置付けについて、明確な説明が加えられています。

永住者は、活動内容の制限がなく、在留期間の制限もありません。

そのため、他の在留資格と比べても、日本で長期的・安定的に生活することができる在留資格です。

資料では、永住者について、「活動・期間の制限が無く、生涯を本邦で過ごすことが想定される最も安定した法的地位」と整理されています。さらに、このような在留資格であるからこそ、「特に慎重な審査を行う必要」があることが初めて明記されています。

この点は、今後の永住許可審査において重要です。

永住許可は、単に日本に長く住んでいるから当然に認められるものではなく、日本で将来にわたり安定して生活し、日本社会の一員として生活していくことができるかを慎重に確認する方向になると考えられます。

素行善良要件は大きな変更なし

今回の改定案では、素行善良要件については、特段の変更はないとされています。

素行善良要件とは、法律を守って生活しているか、犯罪歴や重大な交通違反などがないか、公的義務を適切に履行しているかなどを確認する要件です。

特段の変更がないとされているものの、これまでどおり、素行善良要件は永住許可申請において非常に重要です。

交通違反、刑事処分、税金や社会保険料の未納・滞納、入管法上の届出義務違反などがある場合には、永住許可申請に影響する可能性があります。

独立生計要件の見直し

今回の改定案で特に重要なのが、独立生計要件の見直しです。

独立生計要件とは、永住許可申請人が日本で安定して生活できるだけの資産又は技能を有しているかを確認する要件です。

改定案では、独立生計要件について、現在及び将来において、日本人と同等水準以上の経済条件を求めることを明記するとされています。

これまでの永住許可申請でも、収入や扶養人数、世帯状況、課税証明書、納税証明書、年金・健康保険の履行状況などは重要な審査対象でした。

しかし、今回の改定案では、単に現在の収入があるかどうかだけではなく、将来にわたって安定した生活を送ることができるかという視点が、より明確に打ち出されています。

年収要件が引き上げられる可能性

改定案では、収入について、世帯人数に応じた日本人世帯の平均収入を上回る水準の額に、継続して達しているかを確認する方向が示されています。

これは、永住許可申請における収入面の基準が、これまでよりも厳しく見られる可能性があることを意味します。

特に注意すべきなのは、「世帯人数に応じた」という点です。

単身者であれば生活に必要な収入水準は比較的低く見られる可能性がありますが、配偶者や子どもを扶養している場合には、世帯全体を支えるだけの収入があるかが問題となります。

また、「継続して達しているか」という点も重要です。

一時的に収入が高い年があるだけではなく、複数年にわたり安定した収入があるかが確認される可能性があります。

そのため、永住許可申請を検討している方は、直近の年収だけでなく、過去数年分の収入状況、扶養人数、転職歴、休職期間、副収入の有無などを整理しておく必要があります。

将来の年金受給見込額も審査対象へ

改定案では、年金について、将来の受給見込額が、上記の年収水準で30年間厚生年金に加入していた水準に達しているかを確認する方向が示されています。

これは新たに追加される要素とされています。

これまでの永住許可申請でも、年金保険料を適正に納付しているかは重要な審査対象でした。

しかし、今回の改定案では、単に未納がないかだけでなく、将来の年金受給見込額という観点も加わる可能性があります。

つまり、現在の生活が安定しているかだけでなく、将来、高齢になった後も公共の負担に過度に依存せず生活できるかという点が確認される方向です。

なお、資料では、年金の水準が不足する場合であっても、補填可能な金融資産も考慮されるとされています。

そのため、将来の年金受給見込額に不安がある場合でも、預貯金、資産形成、配偶者の収入、世帯全体の生活基盤などを総合的に説明できるかが重要になる可能性があります。

国益要件の見直し

今回の改定案では、国益要件についても見直しが示されています。

国益要件とは、その外国人の永住が日本国の利益に合すると認められるかを確認する要件です。

改定案では、国益要件の考え方として、積極的かつ具体的に、当該外国人の永住が日本国に利益をもたらす必要があることを明記するとされています。

これは、単に日本で問題なく生活しているというだけでなく、日本社会の一員として安定して生活し、制度やルールを理解し、公共の負担とならないことなどがより重視される方向と考えられます。

また、独立生計要件が不要とされる類型であっても、公共の負担となるおそれが現実的であれば、消極評価される可能性が示されています。

資料では、その例として、日本人、永住者又は特別永住者の配偶者又は子、難民等が挙げられています。

日本語能力が求められる可能性

今回の改定案では、日本語能力について、CEFR、日本語教育参照枠のB1相当、つまり自立した言語使用者に相当する日本語能力を求める方向が示されています。

これは、永住許可申請において、日本語能力がより明確に審査要素となる可能性があることを意味します。

永住者は、日本で長期的に生活することが想定される在留資格です。

そのため、日常生活、行政手続、医療、教育、納税、社会保険、地域社会との関わりなどにおいて、一定程度の日本語理解が求められる方向になると考えられます。

ただし、現時点では、どのような試験や証明方法で日本語能力を確認するのか、どの在留資格や申請類型にどこまで適用されるのかについては、今後の正式な公表を確認する必要があります。

日本の制度・ルールの理解も重要に

改定案では、日本の制度等の理解について、理解が乏しい者は消極評価される方向が示されています。

ここでいう制度やルールには、税金、年金、健康保険、住民登録、入管法上の届出、子どもの教育、交通ルール、地域社会での生活ルールなどが含まれると考えられます。

永住許可申請では、単に収入や在留年数を満たしているかだけではなく、日本社会で生活していくうえで必要な制度を理解し、実際に守っているかが重要になります。

例えば、住民税や年金保険料を期限内に納付しているか、住所変更や所属機関変更などの届出を適切に行っているか、子どもを義務教育期間中に就学させているかなどは、今後さらに重要になる可能性があります。

子どもの就学状況も審査で考慮される可能性

改定案では、子の就学について、学齢期、つまり義務教育期間にある子どもを就学させていなければ、消極評価される方向が示されています。

これは、永住許可申請において、本人だけでなく、世帯全体の生活状況や日本社会への定着状況も見られる可能性があることを意味します。

日本で生活する以上、子どもの教育を適切に受けさせることは重要です。

子どもが学齢期であるにもかかわらず、学校に通っていない、就学状況が確認できない、教育を受ける環境が整っていないといった場合には、永住許可申請において不利に評価される可能性があります。

外国人世帯で永住許可申請を検討する場合には、本人の収入や在留年数だけでなく、配偶者や子どもを含めた生活状況も整理しておく必要があります。

日本人・永住者の配偶者等の特例も見直しへ

今回の改定案では、原則10年在留に関する特例についても見直しが示されています。

これまで、日本人又は永住者の配偶者等については、婚姻期間3年かつ本邦在留期間1年で、特例的に永住許可申請が認められる取扱いがありました。

改定案では、この期間について、婚姻期間を5年、本邦在留期間を3年に伸長する方向が示されています。

これは、日本人配偶者等や永住者の配偶者等にとって、非常に大きな変更となる可能性があります。

今後、配偶者として永住許可申請を検討している方については、婚姻期間、本邦在留期間、夫婦の実体、収入、納税、社会保険、同居状況などを、これまで以上に慎重に確認する必要があります。

適用時期について

資料では、適用時期について、令和9年4月からとされています。

ただし、収入に関する要素については、本年10月施行とされています。

この点は、永住許可申請を検討している方にとって非常に重要です。

今後、正式なガイドラインが公表された場合、どの時点で受理された申請から新しい基準が適用されるのか、すでに申請中の案件にどのような影響があるのか、経過措置が設けられるのかを確認する必要があります。

特に収入に関する要素については、他の項目より早い時期から影響が出る可能性があるため、申請時期の判断が重要になります。

永住許可申請を検討している方が注意すべきこと

永住許可申請を検討している方は、まず現在のガイドラインで申請できるかを確認する必要があります。

今回の改定案を踏まえると、今後は次の点がより重要になると考えられます。

  • 年収が世帯人数に見合っているか
  • 収入が継続して安定しているか
  • 扶養人数が過大になっていないか
  • 年金保険料を適切に納付しているか
  • 将来の年金受給見込額に不安がないか
  • 税金や社会保険料を期限内に納付しているか
  • 日本語能力をどのように説明できるか
  • 日本の制度やルールを理解し、守っているか
  • 子どもを適切に就学させているか
  • 配偶者特例に該当する場合、婚姻期間と本邦在留期間を満たすか

特に、年収、年金、税金、社会保険、扶養人数は、短期間で整えることが難しい項目です。

永住許可申請を検討している場合には、申請直前になってから確認するのではなく、早い段階で課税証明書、納税証明書、年金記録、健康保険、扶養状況などを確認しておくことが重要です。

また、今後は日本語能力や日本の制度理解も重視される可能性があります。

そのため、単に永住申請の必要書類を集めるだけではなく、日本で安定して生活していること、日本社会のルールを理解していることを説明できるように準備する必要があります。

当事務所のサポート

現在、当事務所では、永住許可申請に関するご相談を多くいただいております。

特に、ミャンマー、ベトナム、中国の方をはじめ、日本で長く生活されている外国人の方から、永住許可申請についてのご相談が増えています。

今回の永住許可ガイドライン改定案を踏まえると、今後は、現在の要件で申請できるか、制度改定によってどのような影響があり得るか、申請時期をどのように考えるべきかを慎重に確認することが重要です。

永住許可申請は、在留年数だけで判断できる手続きではありません。

収入、納税、年金、健康保険、扶養、家族状況、在留状況、法令遵守状況などを総合的に確認する必要があります。

当事務所では、永住許可申請をご検討されている方について、現在の在留状況、収入状況、納税・年金・健康保険の状況、扶養状況、家族構成などを確認したうえで、申請の可否や申請時期についてサポートいたします。

永住許可申請をご検討されている方は、制度改定の動向を踏まえ、早めに専門家へご相談ください。